なまこさんについて。 〜出会いと別れ、佃煮スペクタクル〜
なまこさんと出会った。
というか、ふと気がつくとそこにいたのだ。
スマホで撮った写真にフィルターをかけてみると、ちょっとアーティスティックなお姿。
恥ずかしながら、昨日初めて、3年以上連れ添ったiPhoneの写真編集機能を使った。
ずっと、「私のようなアナログ人間が写真の編集だなんてトテモトテモ、」という変な引っ込み思案をしていた。けれど最近、ひとの編集場面を見る機会が増え、わざわざアプリを入れなくてもできるものなんだなーと、じわじわ好奇心を掻き立てられてしまった。
なまこさんとの出会い
昨年の春、中国出身の方と知り合った。その方を部屋に招いた際のこと。
冷蔵庫の上をふと見ると、うちの見慣れたタッパーが置いてあった。
その中に、彼はいたのだ。私たちは彼を、敬意を込めて「なまこさん」と呼んだ。
出会った時には既に水の中にいたけれど、彼はご存命の頃の姿で丸々乾燥させられたナマコのようだ。日本では「ほしなまこ」と呼ばれ、高級食材として珍重されているらしい。
同居
なまこさんをくれた方は、彼を置いて私の部屋を後にしてしまった。
それから数日、何も言わずじっとタッパーの中にいるなまこさんと、付かず離れずの二人暮らしをすることになった。
やっとの思いで、指の腹でひと撫で。鮫肌とでもいうべきかざらっとしていて、それでいてぷにっとしている。その弾力は、宇宙センターなんかによく売っている、水で膨らむ恐竜のおもちゃのそれに似ている。
今回が初対面の私には意外なことだけれど、ほしなまこは人気があるらしい。某人気レシピサイトを見てみると、トゲトゲしたぶち模様のフォトジェニック系レシピがずらり並んでいる。
成長
レシピサイトには、「1週間水で戻す」というのが多かった。
なまこさんに出会ってから2日、朝晩おそるおそるお姿を確認する。
水の中で少しずつ大きくなっている。
ワカメの乾物を思えば当然のことだけれど、なまこさんにはえも言われぬ貫禄があるものだから。
1週間か。
なまこさんは一体どこまでお育ちになるのか。…本場の人に聞いてみよう。
「1週間、水の中でもどすらしいね」
水を取り替えながら3日おき、開いて中を掃除して調理してごらん、とのこと。レシピサイトの半分の日数だし、本場の人を信じることにした。
決戦の日
3日が経つ。独りで切開しなければならない。
私の住む町では今年初めての大きな雪が降った。
一緒に暮らす間、イメージトレーニングを重ねてきた。
形に、模様に、弾力に、剛健さすら感じる肌触りに…なまこさんは明らかに、私には無いものを持っている。
はばからずに言えば、こわい。けれども「食料」であって、海の向こうからわざわざ持ってきてくれた人がいるわけだから、無駄にはできない。何より、なまこさんのお命を頂戴しているわけで。
私と同じく、ナマコに触れたことのない同僚は「ゴム手袋で調理しなよ」と言ったけれど、なまこさんに失礼の無いよう素手で臨むことにした。
佃煮
とは言え、人気らしい酢の物では、あまりにも彼のアイデンティティが残ってしまう。
佃煮にしよう。茶色いやつ。
一刀目。なまこさんの弾力に、刃が入らない。
今度は脇腹(?)をしっかり掴んで包丁を動かす。力を入れると、なんとかお腹を開くことができた。
なまこさんの中は、それはそれは個性的なつくりで。
レシピサイト曰くそこがまた良いものらしいけれど、本場の人が取り除くなら私も取り除こう。
ここで一番時間をかけて、なまこさんの内側がツルツルになるまで取り除いた。
煮て、
煮て、
佃煮。
とげとげフォルムと弾力をのこした、佃煮。
注)戦の後、綺麗な写真とかいう概念を失っています
自分で調理することはもう無いと思うけれど、何かスポーツや大きな仕事をした後のような達成感を得た。
なまこさん、
あなたから色々と学んだ気がします。
良い経験をさせていただきました。
美味しゅうございました。
ちなみに、ほしなまこはインターネットで買えるようです。
お値段を見てびっくり。。。
アマゾンで私が検索したところ、商品はたくさんあるけれど、扱っている会社は同じ様でした。ご参考までに、検索当時最安値だったものです…。