足跡にものがたり
この冬は雪が降る。私の町でも。
最初の雪は大雪で、田舎と都会の中間のような町のいたるところに
これが溶けるより先に、今度は夜中の雪が降ったものだから、
交通網はそこそこ混乱している。
注)雪ニ悦ビ足跡ヲツケル人ノ図
「犬か」
通勤しようにも困ったものだけれど、悔しくも雪にわくわくしてしまう。
まだ誰の足跡もない雪に一番のりする時、足元から聞こえるぎこちない音の甘美さといったら…
そんな幼稚な興奮を顔に出したつもりはなかったのだけれど、
大雪の日の昼休み、10分で昼食を終えて外を散歩してきたら、同僚が一言、「犬か」と。
足跡は物語
雪に自分で足跡をつけるのも格別だけれど、
持ち主が去った後の足跡には、想像を掻き立てるものがある。
通い猫の秘密基地
町の一角には、野良猫が出入りする一軒家がある。
猫はいつも、車道を反対側から勢いよく横切ってきて、そのまま門を突っ切り敷地内に入る。
門にはロープが一本はってあり、人が住んでいるのかはわからない。
大雪から数日、前を通ると小さな足跡。
どうやら雪ニモマケズ通っているらしい。
いつもどこからきて、どこへいくのか。門の先にどんな秘密の世界があるのか。
猫か、タヌキか、あるいは
昔、この辺りには城が建っていた。
お堀にも、長い足跡。雪が降って1週間ほど経った頃のこと。
人のものではない。上の写真同様の猫サイズだけれど、これも猫ではつまらない。
この辺りにはタヌキがでるから、ここにも来たのか、あるいは全く別の何かか…
見る人が見れば簡単に答えが出るのだろうけれど、遠慮しておこう。
わからないのも一興。
ヒトも負けてない
写真の下の方には駐車場や駐輪場がある。左の足跡はそこから来たのだろう。
しかしその上に、単にUターンしている軌跡がある。
雪に気分があがり、跡をつけたくなったのか。
雪が降ると意味もなく距離を稼ぎたくなる気持ちは痛いほどわかる。
それとも、ここぞとばかりに自分の歩みを刻みつけたかったのか。
だとしたら征服欲のようなものを感じる。
そして、いずれのストーリーだったとしても気になるのは、おそらく彼は革靴でこのU字を描いたこと。
出勤前に革靴を履いて雪面にU字を描いた彼の、事情・心情は気になるところ。
だからなんだ。
だから…何でもない。関係もない、どうでもいいこと。
だけれどちょっと気になること。
猫もタヌキも革靴の会社員も、好きに歩けばいいのだけれど、何かが歩けばそこには物語。
その軌跡や、つま先の向いたむこうには、きっと何かがある。