いののみるもの
退職といえば、有休消化。
上司は最終出社日後も出てほしいと言うけれど…それは致しかねる。
引越しや入社の手続きで、物理的に難しい。それに何より、私には
やらなきゃいけないことがある。
最終出勤日までに完璧に引き継ぐ約束をした。
日頃から、備忘録を兼ねてマニュアルを作り貯めていた。家電の
それよろしく画像付きで、一挙手一投足を網羅している。
きちんと実践での引継ぎも済ませ、全ては計画通り。ニヤり。
夜のテンション、ドイツ、イギリス
(魚と狩猟の博物館入り口にいる猪。視線の先は…?)
こんな時に、すべきこと。有休消化中でこそできること。
自宅で夜な夜な、PCを前に遂げるべき雪辱について考えていた。
ドイツに行かなければ。新卒時の入社前研修や仕事、ひとり旅への
及び腰から機会を逃し続けたドイツに。
…せっかくだから、ついでにもう一国いっとこう。
行きはミュンヘン、帰りはロンドンの航空券。深夜のテンションで
購入ボタンをクリックした。
自分史上、最大規模の旅。もちろん航空券の金額も最大規模で、受
信した購入確定メールを見て、ちょっと怯んだ。
目的地は後から
航空券を買って、旅行の外枠が決まった。入社準備を考え、9日間
の旅。2週間くらい遊びたかったのだけど。
スタート地点のミュンヘンは、ドイツの地図でいう右下(!?)にある。
10年来の夢、ケルンは左中央。寄り道しながら右から左に行って、
左端からロンドンに飛べば、移動の効率がいい。
7日目よりも安い6日目の飛行機で、イギリスに飛ぼう。
ミュンヘン・シュトゥットガルト・テュービンゲン、ボン・ケルン、
デュッセルドルフ、ロンドン・コッツウォルズ・バース…。決まり。
今回はドイツの南側を歩くから、日本でもちょっと知られた信号機、
アンペルマンに会うのはまたの機会に。
微笑みの国
今回も、ネットで地図を予習し頭に叩き込んで行った。
ヨーロッパだし、宿泊先はドミトリーではなくバジェットホテル。
自分の危機管理能力に不安があったのだけど、ドイツは寛容な微笑
みの国だった。
道端でも公共交通でも、目が合えばお互い1度にこっとする。挨拶
は誰もが返してくれる。現役の労働力世代以下は、片言でも多くの
人が英語が話す。英語がわからないお年寄りも、ドイツでドイツ語
を話さないアジア人を快く受け入れてくれる。
バスで隣に座らせてもらったおじいさんもその1人で、降りる前に
一言、“Vielen Dank”(どうもありがとう)と声をかけると、顔一杯の笑顔
と少し掠れた高い声で「いいんだよぅ」と言ってくれた。そこから
ドイツ語で何か沢山話してくれたのだけど、全然わからず、とりあ
えず「はい、いい週末を!」と言ってバスを降りてしまった。
ドイツ語をまたはじめよう
テュービンゲンのバスでそのおじいさんと出会った他に、シュトゥ
ットガルトの楽器博物館では、お客の1人もいない体験室で居眠り
中だったおじいさん学芸員に遊んでもらった。サンドバッグとかデ
ッキブラシで作った変わり種楽器が部屋中にあって、おじいさんが
「イヒヒ~」と勧めてくるから一緒に一通り遊んできた。
もちろん、おばあさんでも若い人でも気さくで親切な方に多く出会
った。時には言葉が通じないながら、心が暖まる。
英語圏への旅では、自分へのお土産に本を買うと決めているのだけ
ど、ほとんど忘れてしまったドイツ語もまたはじめようと、今回は
ドイツでテキストを2冊買ってきた。
『ナマケモノのためのドイツ語』と『ちょー簡潔 ドイツ語文法』。
(ちなみに左の表紙、例のアンペルマンの信号機が描かれています)
イギリスも、やっぱり寛容な国
宿泊先が首都だったせいか、ドイツほどフレンドリーではなかった
けれど、さすが移民の国。嫌な思いをすることは一度もなかった。
イギリスもドイツも、様々な文化・人種を受け入れてきた国で、そ
れは街(町)を歩けば視覚にも明らか。
前の記事にも書いたけれど、ロンドン訛りでアングロ・サクソンな
ガイドさんがこの多様性こそがロンドンの長所だと力説していた。
この人が話し好きで、バース・ストーンヘンジ行きの10時間のツア
ー中、結構な時間ロンドンの魅力について話していた。あと、EU離
脱側に投票したけど、これは人種差別じゃないよ、だそうです。笑。
コッツウォルズの猫と交信する
私は猫好きという猫好きではなく、単に可愛い獣が好きなのだけど
岩合光昭さんの『世界ネコ歩き』という番組は涎を垂らして観てい
る。そこで観たこの地の猫たちが忘れられず、また産業革命に乗り
遅れて残った古い建物も見たくて、コッツウォルズに憧れていた。
公共交通ではアクセスが悪すぎるので、バスツアー。
結果、当然そう簡単に沢山の「ぽい」猫に出会えるはずもなく、あ
る空き地でにゃーにゃーと寄ってきてくれた、少しイメージと違う
1匹と、そこにしばらく並んで座って過ごした。
そういう場所なのか、私のせいなのか。
今回の旅行では、知らず知らずのうちに500枚の写真を撮ったのだ
けど、写真を見た1人に怪しい写真ばかりだと言われた。確かに、
ユニークなものが沢山写っている。
これは多分、そういうものばかり目で追ってしまう私のせいなのだ
けど、「変なもの」って、好きだなぁ。
耳で感じる歴史
空の旅は、隣がおしゃべりだと楽しい。
帰りのお隣は、最後に息切れしながら乗ってきた4人組のうち2人
で、イスラエルから来たらしい。彼らはとてもフレンドリーで、フ
ライトの間楽しませてくれた。自国のスナックをおすそ分けしてく
れたのだけど、何だか捉えどころのない味だった(←失礼)。
今回は往復ともワルシャワ経由のポーランド航空だったけれど、長
距離フライトだからか、多種多様なルーツの人がいた。当然、色々
な言語・色々なアクセントの英語が聞こえる。乗務員含め、ポーラ
ンドの方はとてもスラブ的な音で英語を話す様だ。ロシアにルーツ
があるセルビア人で、スラブ文化に詳しい知人が言うには、ポーラ
ンドでは、歴史的にロシアの影響から西側の言語を話すだけで命が
危険に晒される時代があったとのこと。
耳で世界史を感じる、初めての経験かもしれない。
おわりに
これが私の10年来の夢、ケルン大聖堂。高校時代に世界史の資料
集で一目惚れをした。
私は、一体前世でどんな悪いことをしたのか、大きな建造物や像
を見ると、昔から胸がザワザワして怖くなってしまう。この大聖
堂も写真で見る時点で毎回怖かった。だから、行く前はきちんと
観られるか心配だったのだけど、実際に見ると、そんな癖はどこ
かに行ってしまった。
ケルンでは大聖堂を間近に拝めるホテルに2泊したのだけれど、
3日間、1日2・3回通って、口を開いてただ立ち尽くしたり、
端っこからミサを見学したりした。
世界一美しいものの筆頭候補。